M&Aしかないのか?中小企業の後継者不足の実態とその解決策とは

日本の中小企業は、国内経済の柱となる重要な存在です。
しかし、近年、深刻な問題が浮上しています。

それは、後継者不足です。

多くの中小企業が、現経営者の高齢化に伴い、事業の継続に不安を抱えているのが現状です。

経済産業省の調査によると、約60%の中小企業が後継者不在という課題を抱えています。
そして後継者不足の対応策として多くの場合に考えられるのがM&A
果たしてその他に方法はないのでしょうか。

本コラムでは、中小企業の後継者不足の実態を明らかにし、具体的な解決策について探っていきます。
後継者問題に直面している経営者や、その延長線上にM&Aを考えている方々に向けて、有益な情報を提供できれば幸いです。

この記事はこんな人にオススメ!

  1. 後継者不足に悩んでいる中小企業
  2. 後継者不足によるM&Aを検討している事業者
  3. M&Aを今後検討している事業者
  4. M&Aの専門家をつけようか悩んでいる事業者
目次

中小企業の後継者不足の現状

中小企業で後継者不足が深刻な問題となっています。

後継者が不在のままだと従業員の方の生活が不安定になってしまうのは勿論のこと、創業から培ってきた技術やサービスが引き継げず、周囲の協力会社も巻き込んで悪い影響を与えてしまう可能性があります。

今回はそんな後継者不足がなぜ深刻化しているのか、現状と原因を詳しく解説していきます。

少子高齢化

主な原因としてあげられるのは後継者となる子供が少ないことです。

皆さんのご存じの通り、日本では少子高齢化が進んでおり、子供の数が年々減少しています。

日本の人口は近年減少局面を迎えており、2070年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は39%の水準になると推計されています。
また、団塊の世代の方々が全て75歳となる2025年には、75歳以上の人口が全人口の約18%となり、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%となると推計されています

この現状に加えて都心部への人口集中も影響しており、地方にある中小企業は後継者探しがより一層困難となっているのです。

事業承継できる社内人材がいない

自分の子どもへ事業承継をしない場合、その他の選択肢として従業員への承継も考えられます。
しかし、この場合にもさまざまな懸念点が存在します。

まず、社内に経営者となれる素質を持った人材がいなければなりません。
たとえ社員として優秀であっても、経営者の素質があるとは限りません。
経営者となる場合、その会社の業界知識だけでなく、財務や経営の知識、リーダーシップ、倫理観など、多岐にわたる能力が求められます

優秀な社員であっても、これらの要素をすべて兼ね備えているわけではありません。
経営者の視点からふさわしくないことも考慮しなければなりません。

また、経営者の素質を持った社員が社内にいたとしても、実際の事業承継には多くの課題が残ります。
例えば、事業承継を実施する企業の株式の取得に係る資金の問題が挙げられます。
事業承継をする際には、経営者から株式を譲り受ける必要があります。

さらに、事業承継で会社を引き継いだ場合、経営者自らが個人保証をする形で会社の負債を背負うケースもあります。
譲り受ける社員には大きな経済的負担がかかります。
もし事業承継の条件が揃い、社員が経営者になる意思があっても、家族が反対すれば実現は難しいでしょう。

M&Aに対する知識がない

M&A(合併・買収)の知識が不足していることも原因として考えられます。
M&Aは複雑なプロセスであり、法務、税務、会計、デューデリジェンスなど多岐にわたる専門知識が必要です。
初めて取り組む人にとっては、これらの分野に精通することは難しいことです。

M&Aは経済状況や業界のトレンドに影響されます。
知識が古くなったり、新たな規制が導入されたりすることで、初心者は追いつくのが難しいことがあります。
そのためM&Aには専門家のアドバイスやサポートが必要となりますが、地方ではその専門家の数も非常に少ないためM&Aはなかなか進んでいない現状があります。

後継者不足の与える影響について

後継者不足は企業の存続に直接的な影響を及ぼします

後継者が見つからなければ、最終的には廃業に追い込まれる企業も少なくありません。
また、企業の存続が地域経済に与える影響も大きく、地域の雇用や経済活動に悪影響を及ぼす可能性があります。

特に廃業になる企業が増えると、その技術やノウハウを失うこととなり、地域の産業や競争力に影響が及ぶ可能性もあります。

現状の後継者不足の統計データは?

では実際にどれくらいの企業が後継者不足に悩んでいるのでしょうか。
経済産業省のデータによると、約127万社の中小企業が後継者不足を抱えており、そのうちの

60%以上が後継者不在

という状況にあります。

この統計からも以下に後継者不足が深刻かわかると思います。

後継者不足に対する解決策

多くの中小企業が陥っているとされている後継者不足。
原因について紹介してきましたが、では実際にそのような問題に対してどのような解決策があるのでしょうか。
ここでは三つの方法を紹介していきます。

M&Aによる解決

後継者不足の解決策として、最も注目されているのがM&A(企業の合併・買収)です。
M&Aを通じて、外部の企業や個人が経営を引き継ぐことで、企業の存続を図る方法です。

M&Aとは

M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の合併(Mergers)や買収(Acquisitions)を指します。
これは、企業が他の企業を統合することで規模や競争力を拡大しようとする戦略の一つです。
具体的には以下のような形態があります。

合併(Mergers): 二つ以上の企業が一つの企業に統合されることを指します。通常、合併後の企業は合併前の企業の資産や負債を引き継ぎます。

買収(Acquisitions): 一つの企業が他の企業の株式や資産を取得し、経営権を掌握することを指します。買収には友好的なもの(友好的買収)と敵対的なもの(敵対的買収)があります。

M&Aは、企業が市場シェアを拡大したり、新しい市場に進出したり、技術やノウハウを取得したりするための効果的な手段とされています。
しかし、成功するためには適切な戦略と計画、そしてしっかりとしたデューデリジェンスが不可欠です。

M&Aの主な目的
市場シェアの拡大: 同業他社との統合によって市場シェアを増やすことができます。
新市場への進出: 他の地域や国に拠点を持つ企業を買収することで、新市場に迅速に進出することができます。

コスト削減: 経済規模の拡大により、コストの削減や効率化が可能になります。
技術やノウハウの取得: 買収対象企業が持つ特許、技術、専門知識を取得することができます。

多角化: 事業ポートフォリオを多様化し、リスクを分散することができます。
M&Aを成功させるためには、綿密な計画と慎重な実行が求められます。また、統合後の組織文化の調整や従業員の適応も重要な要素となります。

これにより、事業の継続性が保たれ、従業員の雇用も守られるというメリットがあります。

外部人材の活用

もう一つの解決策は、外部からの人材登用です。

プロフェッショナルな経営者や専門家を外部から招くことで、企業の経営を委ねる方法です。

これにより、新しい視点やスキルが企業に導入され、成長のチャンスが広がります。

家族内承継の促進

家族内での事業承継を促進するための支援策も重要です。
例えば、事業承継に関する教育や研修を提供することで、次世代が経営に対する理解を深め、意欲を持って事業を引き継ぐ環境を整えることが求められます。

M&Aによる成功事例と失敗事例

M&Aによる成功事例

成功事例としては、地元企業が大手企業に買収されることで、技術や資本が導入され、事業が拡大したケースがあります。
このようなM&Aは、企業の競争力を高めるとともに、地域経済にも貢献します。

ソフトバンク&日本テレコムの事例

2004年にソフトバンクは、リップルウッド・ホールディングス傘下の固定通信事業者である日本テレコムを買収しました。
この買収の目的は、日本テレコムのODNユーザーをスムーズにYahoo!BBに移行させ、ネットワークへの投資を抑えてコスト削減を図ることでした。
当時、リップルウッドが日本テレコムを買収した際の負債が残っていたため、ソフトバンクとのM&Aによって、さらなる経営悪化が懸念されていました。
しかし、ソフトバンクは法人向け営業への注力や組織の能率向上、インフラ統合によるコスト削減などを実施し、M&Aから3年後には経営再建を果たしました。

温故知新&三井観光の事例

三井観光株式会社は、本社を北海道礼文島に置き、当該エリアでホテル運営を行っている会社です。
一方、譲受先の株式会社温故知新は、本社を東京都に置き、ホテルの運営・運営サポート、ホテル・旅館業専門のコンサルティング・マーケティング支援などを手掛けています。
このM&Aの目的は、ホテルの運営施設数を増加させることです。
特に「礼文島」という日本最北端の秘境である点に魅力を感じ、ディスネーションとしての位置づけを目指して譲受を決定しました。

スター・レジン&フレコードの事例

フレコード株式会社は、埼玉県朝霞市に本社を置き、アクリル樹脂・アクリルシートの加工を手掛ける企業です。
一方、譲受先の株式会社スター・レジンは、東京都目黒区に本社を置き、合成樹脂にかかわる材料・加工品を総合的に手配・販売しています。
このM&Aの目的は、シナジー効果の創出です。
加工部門だけでなく、製造部門などの環境も整っている点に魅力を感じ、譲受を決定しました。

M&Aによる失敗事例

一方で、M&Aや外部人材の活用に失敗した事例もあります。

東芝の事例

東芝は次の主力事業として原子力発電を選び、世界的な原発企業を目指して2006年にウェスチングハウスを約54億ドルで買収しました。
当初は「原子力ルネサンス」とも言われ、地球温暖化対策や安全保障の観点から原発に注目が集まっていました。
しかし、2011年の東日本大震災以降、原発の安全性に対する懸念が高まり、事業環境が厳しくなりました。
建設費用の高騰や工期の遅れも影響し、東芝はウェスチングハウスの買収に際して「のれん代」として3,300億円を計上していましたが、2016年3月期に2,600億円の減損損失を被りました。

ヤフー&アリババの事例

ヤフーとアリババのM&A失敗は、企業買収において注意すべきポイントを示す事例です。
2005年にヤフーがアリババグループに投資し、出資比率が約40%に達しましたが、2社の方向性や経営方針の相違が問題となりました。
アリババが株式を買い戻す提案をヤフーが拒否したことで、両社の対立が続き、ヤフーは大きな損失を被りました。

リコー&ピクセラの事例

2011年にリコーがデジタルカメラ事業を手掛けるピクセラを約2,000億円で買収しましたが、買収後の統合に失敗し、デジタルカメラ市場の急激な低迷も影響し、業績不振が続きました。

これらの失敗から学ぶべき教訓は、綿密な準備と相互理解の重要性です。

企業の成長戦略において、M&A(合併・買収)は重要な戦略とされる一方で、以上の事例を踏まえるとその道のりは必ずしも平易ではありません。
成功の鍵を握る多くの要素があり、準備不足や戦略の誤りは失敗を招くこともあるため、M&Aに精通した専門家のサポートは必須といえるでしょう。

外部人材活用の成功例

次に外部人材を取り入れた活用例についてみていきましょう。

鳥貴族の事例

居酒屋チェーン「鳥貴族」は、創業者の大倉忠司氏が経営から引退する際に、外部からプロフェッショナルマネージャーを採用しました。
2019年に吉野家ホールディングスから和田徹氏を社長として招聘し、彼の豊富な経営経験を活かして企業のさらなる成長を図りました。
この外部からのプロフェッショナルマネージャーの導入により、企業は新しい視点と経営戦略を取り入れ、業績を改善しました。

小松製作所(コマツ)の事例

建設機械メーカーのコマツは、後継者問題に直面した際に、事業承継支援を専門とする会社と提携しました。
後継者の選定や育成に関するサポートを受け、社内外から適任者を見つけることに成功しました。
結果として、経営の安定と事業の継続が確保され、企業の成長を維持しました。

家族内承継の成功例

最後に家族内承継の成功例についても紹介したいと思います。
家族内承継は日本を代表とする企業がよく行う事業承継方法の一つです。

松下電器産業(パナソニック)の事例

松下電器産業(現在のパナソニック)は、創業者の松下幸之助氏が経営を退く際に、親族である松下正治氏(娘婿)に経営を引き継ぎました。
正治氏は幸之助氏のビジョンを継承し、企業の成長を促進しました。
その後も家族経営を続け、松下幸之助氏の経営理念を守りつつ、企業を国際的な大企業へと発展させました。

トヨタ自動車の事例

トヨタ自動車は、創業者の豊田喜一郎氏から始まり、その子孫による経営継承が続いています。
特に、豊田章男氏(創業者の孫)は2009年に社長に就任し、現在もその職を務めています。
章男氏は、トヨタのグローバル戦略を進める一方で、品質管理の徹底と環境技術の導入を推進し、企業の競争力を高めました。
彼のリーダーシップの下、トヨタは世界最大の自動車メーカーの一つとしての地位を確立しています。

キーエンスの事例

キーエンスは、創業者の滝崎武光氏が1986年に設立した企業です。
その後、滝崎氏の息子である滝崎雄一郎氏が後を継ぎました。
雄一郎氏は、父親のビジョンを引き継ぎながらも、革新的な技術と顧客中心の経営を推進し、キーエンスを世界トップクラスのセンサーメーカーに成長させました。

これらの例は、家族内承継が成功するためには、適切な準備と後継者の育成が重要であることを示しています。

家族内承継の成功は、創業者のビジョンと企業文化を維持しつつ、次世代のリーダーが新しい挑戦を受け入れるために必要なスキルと洞察力を持っているかにかかっています。

もちろん、家族内承継がうまくいかない例もあります。
有名なところだと大塚家具の家族内承継が話題になりました。

最終的には2019年に家電量販店のヤマダ電機(現ヤマダホールディングス)と資本業務提携を結びました。
これにより、同社は事実上の経営権を失い、家族内承継は失敗と見なされることが多くなりました。

このような失敗からも家族内承継の難しさが伝わると思います。

本コラムのまとめ

押さえておきたいポイント

中小企業の後継者不足は深刻な問題ですが、適切な対策を講じることで解決可能です。
M&Aや外部人材の活用、家族内承継の促進など、多様なアプローチを検討することが重要になってきます。

また、今回の記事で事例紹介した内容も参考に事業承継を行う際は専門家のアドバイスを受けるなど、慎重に判断するようにしましょう。

当社の強み

トリガーコンサルティングではM&A・事業承継のサポートを行っております。

・事業承継実績は100件越え
中小企業診断士として専門知識と多くの事例に基づく経験
・各専門家と協力し、財務・法務・税務の各分野にわたる包括的なサポート

M&Aや事業承継にお困りの企業様がいらっしゃいましたらお気軽にご相談ください。
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最後に

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この記事の監修

株式会社トリガーコンサルティング
代表取締役 伊藤翔太

経済産業省登録 中小企業診断士
認定支援機関登録

宮城県/仙台市を中心に、
東北の経営コンサルティングをしている。
補助金支援や融資支援などの
財務コンサルティングを始め、Googleマップ、
Instagram、公式LINE等の
Web集客コンサルティングを専門領域としている。

当社の特徴

・200社超の経営支援実績
・補助金採択率97%(35件中34件の採択)
・営業損失300万円の会社を3カ月で黒字化達成
・Web集客支援で、月間新規顧客数を0件⇒10件
など、経営改善から売上アップまでのトータルサポートを得意としており、
建設業、運送業、飲食業、不動産業等の様々な業種に対応している。

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